大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(行コ)63号 判決

控訴人(原告) 村山武俊

被控訴人(被告) 多摩市

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人が当審で追加した請求を棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  控訴人

(控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人が設置した図書館法二条一項の公立図書館において保管する著作物について、控訴人が著作権法三一条一号の規定に基づく複製権を有することを確認する。

3 被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の全部について、控訴人が著作権法三一条一号の規定に基づく複製権を有することを確認する。

4 被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の任意の一部について、控訴人が著作権法三一条一号の規定に基づく複製権を有することを確認する。

5 被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の六三頁から一一八頁までの「2.土質力学・土構造」の全部又は一部について、控訴人が著作権法三一条一号の規定に基づく複製権を有することを確認する。

6 被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の中で山口柏樹が執筆した一〇四頁から一一八頁までの部分の全部又は一部について、控訴人が著作権法三一条一号の規定に基づく複製権を有することを確認する。

7 被控訴人は、控訴人に対し、被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の一一二頁から一一八頁まで複製物を交付せよ。

8 被控訴人は、控訴人に対し、金一〇万円を支払え。

(当審における追加請求の趣旨)

9 被控訴人は、被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の一一二頁から最大限一一八頁に至るまで、控訴人が著作権法三一条一号の規定によって複製行為を行おうとすることを被控訴人の機関たる多摩市立図書館長が現に妨害している状態を排除せよ。

10 被控訴人は、被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」の一一二頁から最大限一一八頁に至るまで、控訴人が著作権法三一条一号の規定によって複製行為を行うことを受忍せよ。

(訴訟費用)

11 訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

一  原判決の引用

原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」及び「第三 争点」記載のとおりであるから、その記載を引用する。

二  当審における当事者の主張の要点

1  控訴人

(控訴の理由)

本件の主要な論点は、著作権法三一条一号が法定複製権を認めているかという点と、多摩市立図書館長による複製不許可は違法かという二点である。

第一の論点は法解釈の問題であり、原審において主張したとおりである。

第二の論点は事実認定に関する問題である。

被控訴人は、原審において、控訴人が著作物の全部の複製のみをもっぱら請求したと主張し、原判決も、控訴人の複製の請求が著作物の一部でもよいとする意思は認められないと認定した。

しかし、控訴人は、多摩市立図書館に対し、一個の著作物の全部を複製せよと要求したことは一度もない。控訴人の主張は、本件複写請求部分は一個の著作物とはいえないということ、もしくは、本件著作物の公共的性質上著作権が制限されるのではないかということである。本件において、図書館長は、複製を全部拒絶しているのであるから、控訴人が有している著作物の少なくとも一部について複製を求めることができる利益を確実に侵害している。したがって、全部不許可とするには、特段の事情が必要となり、その内容は被控訴人が主張立証しなければならない。

また、多摩市立図書館長は、本件複写請求を不許可にする前に、控訴人に対して請求の範囲を変更できないかなどと打診したことは一度もない。したがって、控訴人が一個の著作物の全部の複製を強引に請求するような機会すら存在していないのである。

さらに、著作物の複製の許可を行政行為と考えれば、行政行為には行政庁の裁量の範囲内で付款を付し得るのであるから、その申請者の申請の趣旨に行政庁が全面的に拘束されることはありえない。つまり、本件の事例においては、本件複写請求部分六頁の複製を不適法であると考えるのであれば、三頁までという条件を付款として付けて許可を行えばよいのである。右のような付款を付することは、単なる自由裁量の帰結ではなく、そうすることが多摩市立図書館長に義務づけられていると解さなければならない。

(追加請求の原因)

著作権法三一条一号は公共図書館において、著作物の一部を複製することができると明記しているのであるから、控訴人の複製請求に係る一一二頁から一一八頁までの部分で、一個の著作物と認められる範囲に至らない限度で、控訴人の複製行為が妨害される理由はない。

にもかかわらず、被控訴人の機関たる多摩市立図書館長は、控訴人の右複製の請求を前面的に拒絶したまま、今日に至っている。したがって、被控訴人は、直ちに多摩市立図書館長による複製の前面拒絶の姿勢を改めさせる措置を取り、現に妨害している状態を排除しなければならず、控訴人が自ら行う複製行為を受忍しなければならない。

本追加請求は、法が明文で許容する行為の実行のための妨害排除及び受忍請求であるから、著作権法三一条一号が図書館利用者に複製権を認めたものであるかどうかとは別に、占有訴権の類推により、認容されるべきである。

2  被控訴人

被控訴人は、控訴人が本件複写部分の範囲(一一二頁から一一八頁)を特定して請求してきたことに対し、窓口の職員が口頭で、さらに、図書館長が文書により、本件複写部分を全部複写することは、著作権法によりできないが、その一部分なら複写請求に応じられる旨回答した。

したがって、被控訴人は、控訴人の複写請求を頭から全面的に拒否したわけではない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原判決の引用

当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。

その理由は、第二に述べるところを付加するほかは、原判決と同一であるから、その記載を引用する。

二  当審における控訴人の主張について

控訴人は、多摩市立図書館に対し、一個の著作物の全部を複製せよと要求したことは一度もないと主張するが、もし控訴人が、真実本件複写請求部分の一部につき複写の申込みをする意思があったのであれば、複写を必要とする部分を特定し直して、再度申込みをすべきであったというべきところ、本件全証拠によっても、控訴人がこのような再度の申込みをした事実は認められない。

複製物の交付を求められた図書館としては、図書館利用者が複製物を必要とする著作物の部分が特定されない以上、それが著作権法及び同館の規定に基づいて複製物を交付すべきかどうかを判断できず、したがって、このような複写の申込みに応ずる必要ないし義務がないことは明らかであり、また、全部が駄目なら半分まででよいというのでは、図書館利用者が複製物を真に必要とする著作物の部分が特定されたということができないことも明らかで、このような複製物の交付の申込みは、著作権法三一条一号の規定の趣旨に適合しないというべきである。

控訴人は、多摩市立図書館長は、本件複写請求を不許可にする前に、控訴人に対して請求の範囲を変更できないかなどと打診したことは一度もないと主張する。しかし、乙第一、第五及び第七号証によれば、多摩市立図書館においては、複写機の近辺に「コピーをされる方に」と題するお知らせが貼付してあり、右お知らせには「図書館では次の場合に限りコピーができます。」として、「2.資料の一部分であること。資料の種類により範囲が異なります。(例)「百科事典」・・・項目ごとに著者が明示されているものは項目の半分まで。(本文と図版はそれぞれの半分)」との記載があり、また、複写申込書にも、「著作物の一部分を、おひとり一部に限り複写できます。」と記載されていることが認められるから、本件複写請求部分についても、多摩市立図書館において、口頭又は文書で複写請求部分の全部が許可できない旨応答した場合、当然に「全部については許可できないが、一部についてはコピーできる」旨を表示しているものと認められる(なお、甲第二号証によれば、文書でその旨回答していることは明らかである。)から、控訴人の右主張は理由がない。

また、控訴人は、本件の事例においては、本件複写請求部分六頁の複製を不適法であると考えるのであれば、三頁までという条件を付款として付けて許可を行えばよいのであって、右のような付款を付することは、単なる自由裁量の帰結ではなく、そうすることが多摩市立図書館長に義務づけられていると解さなければならない旨主張する。

しかし、上記のとおり、複製物を必要とする著作物の部分を特定するのは、複製物の交付を求める図書館利用者がなすべき事柄であり、図書館長がなすべき事柄でないことは明らかであるから、多摩市立図書館長において、控訴人主張のような付款を付する義務があると解すべき根拠はない。

三  以上によれば、控訴人が当審においてした追加請求を含め、控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。

よって、本件控訴及び控訴人が当審においてした追加請求をいずれも棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 牧野利秋 押切瞳 芝田俊文)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例